不飽和脂肪酸(オメガ6)の摂りすぎで酸化!過酸化脂質は肌荒れの元。
肉や乳製品などに多く含まれる飽和脂肪酸は、摂りすぎると肥満や動脈硬化などのリスクを高めるなど、健康に悪いイメージがあります。
しかしそれと同様に、植物油脂に多い不飽和脂肪酸もまた、過剰摂取により健康にさまざまなリスクをもたらす可能性が分かってきました。
その具体的な内容としては、不飽和脂肪酸は過酸化脂質やトランス脂肪酸に変わりやすいこと、また特に不飽和脂肪酸の中でもリノール酸(≒オメガ6)については、体内の炎症を促進しやすく生活習慣病のリスクを高めやすいこと…等が挙げられます。
それらのうち、この記事では、不飽和脂肪酸と過酸化脂質の関係に焦点を当て、
- 過酸化脂質は、なぜ身体に悪いの?
- 過酸化脂質は、どのようにして私たちの体内に入るの? あるいは生じるの?
- 体内の過酸化脂質を少しでも減らすには、どうすれば一番いいの?
…等の素朴な疑問に、分かりやすくお答えしたいと思います。
過酸化脂質は健康にも悪いですが、同時に 美肌の強敵 でもあり、しわやシミなど肌の老化をもたらす元凶としても知られます。
そこで特に、過酸化脂質がなぜお肌に悪いか…についても簡単にまとめましたのでご覧ください。
もくじ
不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸、どちらが酸化されやすいの?
不飽和脂肪酸が過酸化脂質となりやすい理由
脂肪酸の“酸化されやすさ”の度合いは、その化学構造の違いに由来します。
とりあえず、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の化学構造を、分かりやすい図で見比べてみましょう。
左側が、植物油に見られるオメガ3(不飽和脂肪酸)のα-リノレン酸。
右側が、牛肉や豚肉に多い飽和脂肪酸であるパルミチン酸です。
赤丸 は酸素原子、黒丸 が炭素原子、小さな白丸が水素原子を表しています。
(α-リノレン酸に付いている薄緑色の丸印については、後ほど説明します)
右側の飽和脂肪酸(パルミチン酸)は、14個のCH2(炭素原子1+水素原子2)がまっすぐに整列しており、外側の水素原子の列にも隙がない状態です。
一方、左側の不飽和脂肪酸(α-リノレン酸)は、くの字に折れ曲がり、水素原子の少ない部分が幾つかあるのが分かると思います。
この折れ曲がっている部分が、不飽和脂肪酸における炭素の“二重結合”です。
上の図では、左側のα-リノレン酸において、炭素原子の黒丸同士が「=」でつながっている個所に当たります(薄緑色の丸印 の中。小さくて見にくいですがすみません)。
この二重結合の辺りは、折れ曲がって隙間があり、しかも1つの炭素原子に対して本来は2つ付いているはずの水素原子がもともと1個少ない状態にあるので、活性酸素に狙われやすく酸化されやすいのです。
これに対し、右側の飽和脂肪酸には二重結合が一つもありません。
従って酸化されることもありません。
これが、不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸と異なり、極めて酸化に弱く過酸化脂質となりやすい理由です。
化学構造から説明。不飽和脂肪酸が酸化されて過酸化脂質となる仕組みとは?
活性酸素はその構造上、電子1個を猛烈に欲しがっている状態にあり、周辺にある他の分子からいわば手当たり次第に電子を奪い、相手分子の構造を破壊し変性してしまうので、ヒトの身体にとっても有害だと言われているのですね。
不飽和脂肪酸が活性酸素のターゲットになると、隙間のある二重結合の部分から水素原子1個を奪っていってしまいます(前項目の画像を参照)。
そして活性酸素自身は、水素原子によって電子1個を得たことで還元され、落ち着いて酸化力を失い無害になります。
しかし今度は、水素原子を奪われた不飽和脂肪酸のほうが落ち着きを失い不安定となり、他に結合できる分子を周囲から探そうとします。そして酸素分子を見つけると、これと結びつきます。
ところがこれによって、酸素分子は本来二重結合をしていますが、この二重結合の構造が壊れるので、やはり電荷的に不安定です。
そこでさらに、周囲の健全な不飽和脂肪酸から水素原子を奪い、ようやく電荷的に安定することができます。
しかしこうして最終的に酸素と結びついて落ち着いてしまった物質は「過酸化脂質」と呼ばれ、元の不飽和脂肪酸の機能を果たすことはできません。
一方、先ほど新たに水素原子を奪われてしまった“健全な不飽和脂肪酸”は、もはや健全ではいられず、やはり不安定となって周囲の酸素分子を引っ張ってきて結びつき、後は上述のプロセスを繰り返してやはり過酸化脂質となってしまいます。
そしてこの過程で、さらに水素原子を奪われる他の不飽和脂肪酸が現れ、これがまた同じプロセスを…というふうに、いったん脂質の酸化が始まると連鎖反応的に周囲の脂質にまで広がっていき、あっという間に辺りが過酸化脂質だらけ…ということにもなりかねません(実際には、体内のビタミンEやグルタチオンといった抗酸化物質が、連鎖を食い止めるために懸命に働きます)。
このように脂質の酸化が連鎖的に進行することを「脂質の過酸化反応」と呼びます。
とにかくこのように、炭素原子の二重結合を多く有する不飽和脂肪酸は、活性酸素から水素原子を奪われやすく、飽和脂肪酸よりも酸化されやすいわけです(というか、飽和脂肪酸は全く酸化されません)。
なぜ過酸化脂質は体に悪いと言われるの?
ノーマルな脂肪酸が酸化され変性したものを“過酸化脂質”と呼びますが、これはヒトの体内で、酸化される以前に持っていた元の脂肪酸としての生理活性を全く示さないどころか、かなり有害な作用をもたらすことが分かっています。
過酸化脂質は、からだの器官や組織を細胞レベルで老化させ、動脈硬化や発がんのリスクを高めることが明らかとなっています。
※ 過酸化脂質の悪影響について、詳しくは下の別記事にまとめてありますのでご覧ください。
【肉食=現代の食事がガンの原因となる理由⑤】活性酸素と脂肪の切っても切れない関係
『過酸化脂質はどんなふうに体に有害なの?』
過酸化脂質はお肌の老化の原因! その理由は?
過酸化脂質が破壊するのは“細胞”。お肌に限らずあらゆる器官を損傷
基本的に過酸化脂質は、お肌に限らず血管や内臓・脳などあらゆる組織にダメージを与え、老化を早めます。
その根本的な理由は、細胞膜を構成している不飽和脂肪酸を酸化させて過酸化脂質としてしまうことです。
そうすると一つには、細胞内外の栄養や老廃物の出し入れ、あるいは細胞同士で協力し合って機能するために必要な情報伝達物質の出し入れ等がスムーズに進まなくなります。
もう一つは、不飽和脂肪酸の特徴であるしなやかな柔軟性が失われることで細胞自体が硬化してしまうこと。
こうなると、例えば赤血球であれば細い毛細血管を通過できなくなり、表皮や末端組織に酸素や必要な栄養が行き渡らなくなってしまいます。
このように細胞膜の脂質が酸化されてしまうと、一つ一つの細胞が機能不全に陥ることで、その集合体である組織や器官の働きそのものにさまざまな障害をもたらしてしまいます。
さらには、細胞膜にできた過酸化脂質は、細胞内の小器官やDNAにまで危害を及ぼし、細胞の壊死を導いたりDNAを変異させてガンの元凶をつくったりします。
特に皮膚においてそれらのことが起こると、例えば、
- 真皮を構成し肌の弾力を保っているコラーゲンやエラスチンの繊維組織が、過酸化脂質による細胞レベルの破壊により徐々に萎縮や断裂し、肌のつやや張りが失われ、しわやたるみの原因となる。
- ターンオーバーに乱れが生じ、シミや黒ずみが長く残る。
- バリア機能を低下させて、肌荒れや乾燥肌を招く。
…など、お肌の若々しさや美しさを損ねるような症状が次々と現れてくるというわけです。
過酸化脂質は、具体的にどんなふうにお肌を老化させるの?
その他にも、過酸化脂質による害をお肌に現われる現象に特化して挙げれば、
- 紫外線などを受け、活性酸素から肌を守るために生成されたメラニン色素が、過酸化脂質の影響を受けて「過脂化メラニン」に変質。
これは通常のメラニンに比べ、色が濃くサイズも大きいため目立ちやすく、さらにターンオーバーでも分解されにくいため、なかなか消えない。 - 毛穴に溜まっている正常な皮脂が酸化され、過酸化脂質となると、周囲に炎症が起こって赤く腫れることでニキビや吹き出物となる。
炎症の経過が悪ければ、しみや痕、そばかすとなって残ってしまう。 - 皮脂が酸化されると、アルデヒドと呼ばれる有害物質が発生。
これが“加齢臭”の原因となる。 - 過酸化脂質が肌のタンパク質と結びつくと“リポフスチン”が生成され、いわゆる老人性色素班の原因となる。
またタンパク質の色も黄色く濁るため、“黄ぐすみ”の原因となり、肌の透明感も失われる。 - 赤血球の外膜が酸化されれば血行不良が起こり、お肌の色つやも悪くなり若々しさを失う。
…等々、枚挙にいとまがないほどに出てきます。
お肌にもたらす弊害だけでもこれほどにあるのですから、からだ全体に及ぼす悪影響についてはどれほどのものになることか(汗)
やはり脂質は、動物性・植物性にかかわらず摂りすぎるべきではないのです。
※あくまでも“摂りすぎ”に注意です。全く脂質を摂らないほうがよいと言っているわけではありません。最低限の脂質はからだの健全な生体機能に必要不可欠です。
また、過酸化脂質を少しでも摂ったからといって、上のような症状が即現われるというわけではありませんので、過剰に神経質にはならないでくださいね。
まあ「こんなにお肌に悪いことがあるんだ、油の摂りすぎはコワ~イ」ぐらいに思っておいたほうが、食事の際の“抑止力”としては効果的です。ジューシーな肉料理・こってりしたチーズやクリームのメニュー・唐揚げや天ぷらなどアブラ料理への誘惑を少しでも抑えることができます(^^;)
「お肉を食べて飽和脂肪酸をたくさん摂れば、酸化の心配は不要」というのは本当?
ちなみに「では飽和脂肪酸なら酸化の心配がないから、お肉やチーズ・牛乳は幾ら食べたり飲んだりしても過酸化脂質の問題は起こらないんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、これは大きな間違いです。
肉類や乳製品などの食品は、野菜や魚介類などに比べ、食べるだけで特に多量の活性酸素を体内に生み出すことが知られています。
この多量の活性酸素は、当然ながら多量の過酸化脂質をつくり出す原因となります。
おまけに肉類や乳製品を多用した洋風料理は、どうしても脂っこいメニューが多く、植物油もたくさん使用することが多いのです。
不飽和脂肪酸を多量に摂取して活性酸素を体内に増やすとどうなるか…もうお分かりですよね?
その他、肉の食べ過ぎによる活性酸素の悪影響については、以下のような別記事に詳しくまとめてあります。
こちらもぜひ参考にしてくださいね。
【肉食=現代の食事がガンの原因となる理由③】活性酸素が癌を起こす仕組み
【肉食=現代の食事がガンの原因となる理由④】肉を必死で消化しながら活性酸素が激増
【肉食=現代の食事がガンの原因となる理由⑤】活性酸素と脂肪の切っても切れない関係
過酸化脂質はどうやって私たちの体内に入るの?
不飽和脂肪酸が酸化されてできる“過酸化脂質”がヒトの体内に入る機序には、次の2つが考えられます。
① 食品中に存在していた過酸化脂質が、食事を通して摂取され消化吸収される。
外から直接入ってきた過酸化脂質は、私たちの体内でどのような扱いを受け、そしてどのような形で存在することが考えられるか。
数多くある動物実験を総合して考えると、およそ以下のようなことが推測されます。
食事を通して外から摂取した過酸化脂質は、その全てがそのままの形で腸管から取り入れられるわけではなく、多くは二次生成物に分解された上で吸収され、一部は肝臓による代謝を受け、最終的には呼気や尿と一緒に排出されるようです。
しかしやはり摂取された過酸化脂質の一部には、そのまま体内に吸収されて少しずつ蓄積されるものもあるようです。
実際に動物実験の範囲では、酸化油脂を投与した動物には、小腸粘膜の変性壊死や肺・肝臓の壊死といった障害が起こる、あるいは肉腫や悪性腫瘍が有意に増加する等のデータが報告されています。
ヒトが多少の過酸化脂質を食べたところで即座にこのような健康被害が現れるとは考えにくいですが、やはりできることならなるべく食品中の過酸化脂質は摂取を避けたいところですね。
② 体内のノーマルな脂肪酸が、活性酸素に酸化されて過酸化脂質となる。
多価不飽和脂肪酸(リノール酸などオメガ6、α-リノレン酸・DHA・EPAなどオメガ3)は、度を超えた量を摂取したり、偏食やストレス・紫外線や有害な化学物質などの影響で活性酸素が体内に多く生じやすい生活を続けていると、体内で活性酸素により酸化され、過酸化脂質を増やしてしまう可能性があります。
※ 体内で過酸化脂質が連鎖的に増えていく仕組みについては、上記『化学構造から説明。不飽和脂肪酸が酸化されて過酸化脂質となる仕組みとは?』をご覧ください。
ただし、普通にバランスの取れた食事、適度な運動や生活環境など普段から健康的な暮らしをしている中で、体によいと推奨される程度の量を摂取する範囲では、健常なヒトのからだにおいては不飽和脂肪酸の酸化を抑制したり、仮に過酸化脂質となっても速やかに解毒・排泄する機能が働くため、心配には及びません。
なお、これらの機能がきちんと働くためには、脂質に対する抗酸化力の高いビタミンEの適度な摂取が欠かせませんので、魚介類・野菜・ナッツ・豆類などを毎日の食事に取り入れて、ビタミンEが不足しないよう心がけることが効果的です。
※ 不飽和脂肪酸の中でもオメガ3、特に脳細胞に多い「DHA」については、ヒトの体内にあるさまざまな抗酸化システムによって酸化が最小限に抑えられていることが明らかになりつつあります。詳しくは下の別記事をどうぞ。
<オメガ3“DHA”を酸化から守る驚きの生体機能。脳では抗酸化物質に!>
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、果たして本当にヘルシーなのはどっち?
脂肪酸にはいろいろな種類があり、何をどれくらい摂ればよいのか、本当に戸惑うところですよね。
そんな紛らわしい脂肪酸の種類について、このブログでは、幾つかの記事に分けて詳しくご説明しています。
脂肪酸はどれも、適度な摂取が必要です。
それぞれの脂肪酸のメリットとデメリット、そして全体的に過不足なく摂取するには、結局どのような食生活が最も効果的なのか…をご理解いただくのにきっと役立つことと思います。
ぜひあなたのヘルシーライフに生かしてくださいね。
なぜ世界中で不飽和脂肪酸の摂りすぎに!?心疾患の敵は肉の脂だけじゃない。
不飽和脂肪酸(リノール酸)の過剰摂取はアレルギーや生活習慣病の原因に。
不飽和脂肪酸がトランス脂肪酸に変貌…マーガリン・植物油・パン・お菓子に注意。